キャップの物欲。

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読書録③

読書録③

 

和をもって日本となす

ロバート・ホワイティング

 

普段から本を読んでも、つまらなかったものは

ここには載せないようにしているが、「よかった!」って

本の良さにも差がある。その中でも

この本は、久しぶりに会心の一撃だった。

ちょっと古い本ではあるが、一読の価値がおおいにある。

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この作者は「東京アンダーワールド」という東京の裏社会を

書いた本の方が日本では有名かもしれない。

今回の「和をもって日本となす」はプロ野球の外国人選手に

関して徹底した取材で書かれている。

スポーツ新聞や雑誌、テレビのスポーツ番組では決して、

知ることのできない裏側の話、外国人選手の本音。

野球に関して無知過ぎて問題をこじらせるサラリーマンオーナー、

精神主義にとらわれ続ける監督、コーチ軍、

ファン心理をコントロールするマスコミ。

外国人選手と日本球界、ひいては日本社会が抱える問題や

特色をわかりやすく、かなりのボリュームで書いている。

ディープな取材と相当な勉強の元に書かれている素晴らしい内容だ。

 

この「和をもって日本となす」というタイトルも秀逸だ。

一般的に、日本人は無宗教と言われたり、宗教に対して

節操がないと言われることが多い。

葬式は仏教、結婚式はキリスト教、初詣は神道

神にも仏にも祈る・・・

これは外国人から見ると、節操なく見えるが、当の日本人は

全然、恥じてはいない。あらゆる良い点を見習い、排他的にならない

真摯な姿勢ともいえるからだ。

 

しかし、そんな日本人にも、共通した宗教の様な絶対に譲れない思想がある。

昔から日本人には守らないといけない共通ルールがあるのだ。

それは「和」なのだ。

はるか昔に聖徳太子は「和をもって貴しとなす」と言ったが、これが我が国初の憲法で、その中で一番最初に書かれている文だ。

現代でもよく「和をみだすな」と言う機会がある。

現代風に言うと「空気を読めよ」って感じだ。

「アラーが神でもキリストが神でもブッダが真理でもなんでも良いが、

和を乱すヤツだけは許さない」というのが

2000年に渡って日本人の中に流れる共通の認識なのだ。

 

グローバル・スタンダード」という言葉が言われ出して230年経った現代では

グローバル・スタンダードとは世界基準と言われたが、今から見ると

アメリカの基準を世界に広げるてことだったわけだけど)それが浸透して

ある程度、「個人主義」というのは、社会的に一定の理解を得られてきた。

それも個人主義の成功者達が古い風習と戦い続けたからだろう。

それまでの間に、つぶされた人間は数知れずと思われる。

ともかく、日本は個人主義は「和を乱す」し、

その中でも能力者は「出る杭」だから打たれるのだ。

 

日本の伝統の様な思想である「和を乱すな」に加えて、日本は

大きな戦争を経験することによって、異常なまでの

上下関係を生んだ。

スポーツをやっている人は、今でもそうだろうし、

逆にスポーツの経験者ではない人は一生理解できないんじゃないだろろうか。

監督は絶対の権力者であり、コーチもまた

口答えして良い相手ではなく後輩は先輩のお世話をしないといけない。

また、練習はすればするほど、結果に繋がるという、非合理的な思想がある。

 

欧米の考え方は、合理的だ。アメリカでもヨーロッパでも同じく、

充分な休養と、リラックスした環境が必要だし、

レーニング内容も人それぞれに適した内容があるはずで、

さらには疲れ切った身体では

いくら練習しても身に付かない。

ただ体力を削っていくだけだという考えだ。

また、監督にも先輩にも意見もするし冗談を言い合う仲なのだ。

事実、メジャーリーグでは年の後半にピークがくる選手も多い。

 

そんなアメリカ人が、日本という特殊な環境のチームに

入ったらどうなるのか・・・

また、日本人ファンは熱狂するが、手のひら返しも凄い。

これはマスコミの思想や、チームの成績不信時の

スケープゴードといった面もおおいにあるだろう。

 

この本が取材していた時期は、あのボブ・ホーナーが来日し

ブームを起こした後、たった一年で解雇の様な形で帰国してしまった

場面から歴史を振り返る。

ホーナーは素晴らしい成績を残したが、多くの日本人は悪いイメージしか

残っていないのではないだろうか

しかも、多少の成績ダウンにも理由があるのだ。

 

また、阪神のスター、ランディ・バースがなぜ帰国してしまったのか

なぜ、その後も日本と関係しないのか?

レオン・リーレロン・リー兄弟は、今見ても凄い成績を残しているにも

関わらず、オールスターにも出れなく、CM出演もなかったのはなぜか?

古いところでは、巨人にいたレジー・スミス。

あの巨体で筋肉質のアフロの黒人というイメージで、彼を

ワイルドな腕力選手と思い込んでいる人はいないだろうか?

実は彼は非常に理論派で、コーチ就任すら望んていたような人物なのだ。

 

そんな彼らの日本の球団との軋轢、日本の文化との戦いが

克明に書かれている。

また、「黒い目のガイジン」落合もその一人だろう。

彼ほど異端な日本人は、後にも先にもいない。

 

圧倒的な集団コントロールによる、均一なクオリティのコントロール

まるで、日本製品のようだ。

もちろん、良いことでもある。しかし、スポーツの上では、

均一化はクオリティの向上には繋がらないのではないか?

そんな疑問が沸いてくる本だ。

 

また、途中に書かれている、当時新人類と言われた

清原、秋山、工藤等のヤング・ライオンズの活躍、

ダウンスイングを未だに日本の指導者が信じているが、

それはとある誤った認識から始まったという話等の

挿話もとても楽しい。

 

日本の「和を乱すな」という思想と文化を

見事にとらえたこの本は

当時、アメリカでは、日本とビジネスする際に必読とまで

言われた良書なのだ。

ぜひ、読んで欲しいと思う。特に子供を持つ人、

野球やサッカー等の指導者、仕事で管理者をしている人には

おすすめだ。

 

最後に、とある有名な高校のエピソードを伝えたい。

練習が終わったあとのグラウンド整備は必ず一年生が

やることに決まっていたが、ある時「なんで一年生だけが

やらないといけないんですか?」と聞いた生徒がいたという。

この話を聞いて、「当たり前だろ」とか「生意気だ」とか

「俺たちもやってきたんだから」等と思った人は、

この本を一度、読んでみてはどうだろうか